「左右」という感覚はどこから生まれるか
私たちは生まれたときから、上下や前後の感覚を自然に身につけています。頭が上、足が下。顔がある方が前、背中がある方が後ろ、という感覚です。
ところが「左右」だけは、少し事情が違います。左右は、上下や前後のようにはっきりと違う特徴で区別されているわけではなく、いわば「向き」によって決まる、あいまいな感覚なのです。
たとえば自分が体の向きを変えれば、さっきまで右にあったものが左になります。左右は、常に「見る人の向き」とセットになって決まる感覚だといえます。
この「向きによって決まる」という左右の性質こそが、鏡を見たときの錯覚を生み出す土台になっています。ここからは、実際の専門家の見方をもう少し詳しく見ていきましょう。
「視点を入れ替える」という心理学的な見方
東京大学の高野教授の研究によれば、人の姿が左右逆に見える感覚は、「左右を判断するときに視点を入れ替えてしまうこと」から生じるとされています。
たとえば左手に腕時計をつけている自分を思い浮かべてみてください。自分自身の視点では「時計は左にある」と判断します。ところが、鏡に映った自分を見るときには、無意識のうちに「鏡の中の人物の視点」に立って判断してしまうことがあります。
鏡の中の人物からすれば、時計は「右」にあるように見えます。この視点の入れ替えこそが、「左右が逆になった」という印象を生む一因だと説明されています。
とても興味深いのは、この視点の入れ替えをしない人は、同じ鏡を見ても「左右は逆になっていない」と感じるという点です。次は、この視点の話をもう少し身近な形で考えてみます。
