「足先に影をつけて」というひと言の重さ
1点が決まったあと、「入選作にあった足先の影を入れてほしい」という条件が付け加えられました。走っている人のつま先のあたりに、切れ込みのような余白を入れるという指示です。
ところが、これが簡単ではありませんでした。太田さんの説明では、そのまま足先に影を入れると、左側にある壁の影と近づきすぎてしまいます。足の角度だけを変えると、今度は全体の釣り合いが崩れます。結局、人の全身を少しずつ調整し直して、今の形にたどり着きました。
今あらためて非常口マークを見ると、走る人のつま先の下に、小さなすき間があります。あれは絵の飾りではありません。足が地面から離れて前に出ている、つまり歩いているのではなく進んでいる、と伝えるための線です。
この「動きの見せ方」には、もう一つ意図があると言われています。走っているのに、慌てて見えない形になっているのです。
全力疾走に見せない、という工夫
非常口マークの人は、扉から外へ出ていく途中の姿です。ただ、陸上選手のように前に大きく傾いてはいません。背筋はほぼまっすぐで、腕もそれほど振っていません。
この点について広く言われているのは、「速く、しかし落ち着いて動いてほしい」というメッセージだという説明です。海外の紹介記事でも、全力で駆け抜けるのではなく、着実に、静かに進んでいるように見える点が評価されています。
火事や地震のときにいちばん怖いのは、人が慌てて出口に殺到することです。もし看板の人が必死の顔で全力疾走していたら、見た人の不安をあおるかもしれません。急がせるけれど、あおらない。その線引きが、あの姿勢に表れているという見方です。
形が決まると、次は色です。非常口が緑である理由には、じつは色の仕組みに基づいた説明があります。
