コカ・コーラ「New Coke」
1985年、コカ・コーラは約99年ぶりに主力商品の味を変更しました。新しい味は「New Coke」と呼ばれ、米国で大々的に投入されました。後年の同社資料によると、味のテストでは新しい処方が従来品より好まれる結果が出ていました。数字だけを見ると、自信を持って発売したことが分かります。
ところが発売後、従来の味をなくしたことに消費者から強い反発が起きます。コカ・コーラ社は1985年7月11日に元の味の商品を「Coca-Cola Classic」として復活させました。4月23日の発売から79日です。味覚テストでは測れなかった「慣れ親しんだ味」への愛着が、大きな誤算になった事例として知られています。
この判断が難しかったのは、発売前の調査が「どちらの味がおいしいか」に重点を置いていたためです。家庭で長年飲んできた商品には、味そのものだけでなく、記憶や習慣が結びついています。新しい味を高く評価する人がいても、店から昔の商品が消えることまで歓迎するとは限りません。そこにNew Cokeの大きな落とし穴がありました。
79日で元の味が復活した理由
New Cokeの特徴は、商品そのものの味だけでなく、元の商品との関係にありました。コカ・コーラ社自身も後年、1985年のテストでは新しい味が好まれた一方、従来の味への感情的なつながりまでは測れなかったと振り返っています。つまり、「新しい味を試したい」という気持ちと、「いつもの味を残してほしい」という気持ちは両立します。
さらに、従来品をいったん置き換えたことで、「新商品を買うかどうか」ではなく「昔の商品を返してほしい」という話に変わりました。商品の変更は、性能や味を改善するだけでは済まない場合があります。とくに長年親しまれた定番商品では、変えないこと自体に価値があるのです。次は、その逆に「見た目を大きく変えたコーラ」が登場します。
この出来事から分かるのは、商品を改良するときの比較相手は競合だけではないということです。長く売れている商品なら、「今までの自分の商品」も強力な競争相手になります。特に日常的に使う食品は、変化そのものを嫌う人もいます。新しくすることが常に正解とは限らないという、分かりやすい例です。次は、なぜ味の調査では高く評価された新しいコーラが、わずか79日で元の味を呼び戻すことになったのかが焦点になります。
