雲が富士山のふもとに降りたような「ほうとう不動」
山梨県の河口湖畔に建つ「ほうとう不動」は、丸く大きく広がる屋根が印象的な飲食店です。設計者の保坂猛さんの事務所では、富士山にかかる雲のような建築として紹介されています。空に浮かぶ雲をそのまま固めたような外観で、一般的な飲食店とはかなり違う印象を受けます。
この形には、土地との関係もあります。建物は富士山と一枚の絵のような風景をつくることを意識して設計され、河口湖周辺の景観の中で存在感を持つ一方、雲のように自然へ溶け込む姿も狙われました。地元料理のほうとうを出す店だからこそ、単なる箱ではなく、旅の途中で目にする風景そのものになるよう考えられています。
富士山を訪れた人にとって、建物も旅の景色の一部になります。料理店は食事だけを提供する場所ではなく、土地の印象を持ち帰ってもらう場所にもなり得ます。雲のような形は、その役割に合った表現です。
屋根の曲面は、富士山から見える空や雲との関係を考えるうえでも重要です。建物単体ではなく、山、空、道路を一緒に眺めると意図が伝わりやすくなります。
水滴のような姿をした「豊島美術館」
香川県豊島にある豊島美術館は、山のような建物を想像して訪れると驚くかもしれません。ベネッセアートサイト直島の紹介では、水滴のような形をした建物と説明されています。高さは約4.5メートルと低く、広さ約40メートル×60メートルの大きな屋根が、地面にそっと置かれたように見えます。
実は、屋根の形は見た目だけを優先したものではありません。コンクリートの薄い殻のような構造でつくられ、屋根には二つの大きな開口部があります。自然光や風を感じる空間をつくるための形が、結果として水滴にも似た独特の姿を生み出しています。「自然の形をまねた」というより、自然との関係を考えた結果として生まれた形なのが興味深いところです。
豊島美術館は、屋根の低さも大きな特徴です。背の高い建物をつくるのではなく、周囲の地形に沿うように広がることで、建物と風景の境目を曖昧にしています。形を見るときは高さだけでなく、地面との関係にも注目です。
内部には大きな開口部があるため、外観の柔らかな曲線だけでなく、光の入り方まで含めて設計されています。建物の形を「景色の一部」として見る好例です。
