⑦「泣く少年」の絵は、火災から生き残ると言われた
「泣く少年」と呼ばれる絵は、英国で大きな騒ぎになった大量生産の絵画プリントです。1985年、住宅火災の焼け跡から、周囲の家具や内装が燃えているのに「泣く少年」の絵だけがほとんど無傷で残ったという話が新聞に掲載されました。その後、似たような火災の話が次々と報道され、「この絵には火を呼ぶ呪いがある」という噂が急速に広がりました。
「The Sun」は読者に絵を送るよう呼びかけ、集めた絵を焼却する企画まで行いました。研究者デイヴィッド・クラークの調査では、1985年から1986年にかけてこの話を扱う新聞記事が多数確認されています。つまり、火災の噂そのものだけでなく、新聞報道が噂を増幅した過程も記録に残っているのです。
当時は「火災でも燃えない」という性質が、呪いの証拠として受け止められました。ところが火災では、壁紙や家具よりも小さな額縁のほうが炎にさらされにくいことがあります。焼け跡の一場面だけを切り取ると、偶然でも異常に見えてしまいます。
なぜ絵だけが燃え残ったように見えたのか
後年、この絵が燃えにくかった理由として、印刷物の素材や表面加工が注目されました。調査では、絵が圧縮した板に印刷され、表面に燃えにくい性質のある加工が施されていた可能性が指摘されています。もちろん、すべての火災で同じ条件があったとは限りません。
また、火災では燃え方に大きな違いが出ます。壁に掛かった小さな絵は、炎の通り道から外れたり、水で消火されたりすることもあります。ところが、何度も「無傷だった」という事例だけが紹介されると、偶然の積み重ねが不思議な共通点に見えます。次は新聞ではなく、現代科学が詳しく調べた古代の人物にまつわる「呪い」です。
大量生産された絵だったことも重要です。街の多くの家庭に同じような絵があれば、火災で見つかる可能性そのものが高くなります。希少な一点物より、数多く存在する物のほうが「不思議な一致」が集まりやすいのです。
「燃え残った」という一点だけを見るのではなく、絵がどのくらい普及していたのか、火災で何が燃えやすかったのかまで考えると、現象の見え方が変わります。
