⑱「The Hands Resist Him」は、eBay出品で突然「呪われた絵」になった
「The Hands Resist Him」は、米国の画家ビル・ストーンハムが1972年に制作した絵です。少年と人形のような少女がガラス扉の前に立ち、その向こう側から無数の手が伸びています。ストーンハムによれば、少年は5歳のころの自分の写真をもとにしており、扉は現実と想像の境界、手は別の可能性を表しています。
ところが2000年、絵がeBayに出品されると状況が一変しました。出品者は、絵の中の人物が夜に動く、部屋へ出てくるなどの奇妙な説明を添えました。ネット上でページが広まり、「eBayの呪われた絵」として話題になります。入札も集まり、最終的に約1000ドルで売れました。
出品ページには、購入者への注意書きまで添えられていました。恐ろしい設定を文章で先に与えることで、閲覧者は普通の絵を見るときとは違う目で作品を見るようになります。ネット時代ならではの「説明によって怖さが生まれる」現象です。
絵の作者であるストーンハム自身は、作品を怪談として制作したわけではありません。本人が説明する象徴的な意味と、後から付けられた怪談を分けて考えることがポイントです。
怖さを生んだのは、絵そのものより「説明文」だった
この絵の例で非常に面白いのは、同じ作品が1972年から2000年まで、特に呪われた物として知られていなかったことです。つまり、作品の意味が変わったわけではなく、「恐ろしい説明」が加わったことで見え方が変わりました。しかもインターネットでは、文章や写真が短時間で何度も転載されます。
人が絵を見るときも、先に「この絵には何かいる」と聞かされると、普通の影や表情まで不気味に感じることがあります。これは「呪いが存在する」という証拠ではなく、情報が見え方を変える一例です。次に登場する絵は、さらに個人的な体験談から「世界で最も呪われた絵」のように語られるようになりました。
しかも当時のインターネットでは、現在ほど情報源を確認する習慣が広まっていませんでした。噂を検証する前に転載や口コミが広がりやすく、絵の背景より怪談のほうが先に有名になる条件がそろっていたのです。
この作品は現在では「呪われた絵」そのものより、ネット上で怪談が広がった初期の事例としても興味深い存在です。現物の歴史と、ネット上で生まれた噂の歴史が二重になっています。
