⑮バズビー・ストゥープの椅子は「座ると死ぬ」と恐れられた
英国ノースヨークシャーに伝わる「バズビー・ストゥープの椅子」は、殺人犯トーマス・バズビーが呪いをかけたとされる木製の椅子です。バズビーは1702年、義父を殺した罪で絞首刑になりました。その前後にこの椅子を呪ったという伝説が生まれ、後に椅子へ座った人たちが事故や戦争で死亡したという話が積み重なりました。
特に、第二次世界大戦中に近くの基地にいた兵士がこの椅子に座り、その後帰らなかったという話が有名です。1978年には、椅子は地元の博物館へ寄贈され、現在は人が座れないよう高い位置に置かれています。ただし、伝説上は1702年の椅子とされていますが、家具の調査では19世紀に作られた可能性が指摘されています。
椅子の話は、怪談が現物より先に歩き出すことも示しています。長年「バズビーが座った椅子」と説明されてきたため、来歴を疑う人が少なかったのです。しかし、木材や加工方法を調べれば、別の年代が浮かび上がる可能性があります。
「1702年の呪い」と「1840年前後の椅子」は両立する?
ここが、この話の面白いところです。バズビー本人が呪ったという伝説が本当なら、その椅子は1702年より前から存在していたことになります。ところが家具史の調査では、椅子の部材や加工方法から19世紀の製作を示す特徴があるとされました。
もちろん、この一点だけで伝説全体が否定されるわけではありません。しかし「どの品が、いつ作られたのか」を調べるだけで、怪談の骨格が揺らぐことがあります。怖い話を歴史として読む場合は、出来事だけでなく、物そのものの年代まで確認することが大切です。次は、名前からして少し意外。「サファイア」と呼ばれているのに、実はサファイアではない宝石です。
現在は椅子を人が使えないように展示することで、事故を防ぎながら伝説も保存しています。つまり、博物館の展示そのものが「呪われた物」という物語を後世へ残す仕組みになっています。
つまり、この椅子は「呪いが本当にあるか」を試す物というより、地域に残った伝説を保存する文化資料に近い存在です。座らせないという展示方法自体が、伝説の強さを伝えています。
