⑲「アングィッシュド・マン」は、祖母から受け継いだという怪談
「アングィッシュド・マン」は、苦痛にゆがんだ顔の人物を描いたとされる油彩画です。作者名や制作年代など、作品そのものの来歴ははっきりしていません。現在の所有者ショーン・ロビンソンは、祖母からこの絵を受け継いだとし、祖母が「絵は邪悪だ」と話していたと紹介しています。祖母は、作者が絵に自分の血を混ぜ、完成後に自殺したと伝えていたとされます。
ロビンソンは、絵を家に置いてから不思議な物音を聞いた、影のような人影を見た、絵が落ちたなどの体験を語っています。これらは本人の証言として紹介されていますが、作者の正体や「血を混ぜた」という話などを独立した資料で確認するのは難しい部分があります。そのため、史実というより現代の怪談として扱うのが適切です。
この絵については、祖母から聞いたという話が中心で、制作年代や作者の身元を裏付ける資料ははっきりしません。そのため、細かな出来事を事実として積み重ねるより、「そう語られている作品」として扱うほうが安全です。
「作者不明」だからこそ物語が育った?
アングィッシュド・マンの特徴は、作品そのものより「作者が誰なのか分からない」という空白です。作者名が確認できれば、制作時期や作品の意味を調べる手がかりになります。しかし、情報が少ないと、その空白を物語で埋めることができます。「苦痛に満ちた顔」「血を混ぜた」「作者の自殺」という要素は、どれも絵の印象と相性がよく、ひとつの怪談としてまとまりやすいのです。
こうしたケースでは、伝聞を楽しみながらも、どこからが確認済みで、どこからが所有者の証言なのかを分けて考えることが重要です。次に取り上げるのは、創作的な怪談とは違い、19世紀初頭の地域史として実際に多くの記録が残る「ベル・ウィッチ」の物語です。
怖い絵を見ると、描かれている人物の表情や暗い色づかいを「何かが起きた証拠」と感じてしまうことがあります。しかし、絵の印象と制作時の出来事は別です。この切り分けができると、怪談をより冷静に楽しめます。
作品の作者不明という点は、逆に想像の余地を大きくします。名前や制作時期が分かれば物語を検証できますが、情報が少ないほど、後からさまざまな解釈が重なりやすくなります。
