⑤「ディブック・ボックス」はネット発の呪いだった
ディブック・ボックスは、古い木製のワイン収納箱として売りに出された品です。2000年代初頭、米国の家具修復業者ケビン・マニスが入手し、インターネットオークションに出品しました。その説明には、ホロコーストを生き延びた女性が持っていた箱で、中に悪霊「ディブック」が宿っているという不気味な背景が書かれていました。
買い手や後の所有者が体験談を重ねたことで、箱は「触れると悪いことが起きる呪いの箱」として知られるようになりました。やがて映画の題材にもなり、ネット上で急速に有名になります。しかし後年、マニス本人が、ディブック・ボックスの物語は自分が作った創作だと認めました。つまり、この例では呪われた物があるのではなく、呪われた物語が現実の品に付着していったのです。
ディブック・ボックスの名が広がった背景には、2003年のオークション説明だけでなく、その後の所有者が自分の体験を加えていったことがあります。ネットでは一度生まれた設定に新しい話が重なり、元の情報との境目が見えにくくなりました。
名前の元になった「ディブック」とは?
「ディブック」は、ユダヤの民間伝承で語られる霊的な存在を指す言葉として知られています。死者の魂が生者に取りつくという考えと結びつき、箱の物語に使われました。ただし、宗教上の伝承と、マニスが作った2000年代のオークション物語は同じものではありません。
この違いは大切です。昔から存在する文化的な伝承が、現代のインターネット上で新しい怪談の形に作り替えられることがあるからです。ディブック・ボックスはその分かりやすい例でしょう。怖い話の「元ネタ」が本当に古いのか、それとも最近作られたものなのかで、調べるべき資料も大きく変わります。次は、映画で一躍有名になった別の人形です。
しかも箱は映画『The Possession』の題材になり、ネット怪談が映画を通じてさらに現実味を持つようになりました。現実の品から創作が生まれ、創作が現実の品へ戻ってくる循環が起きた例です。
この物語が「古い品物には昔から霊が宿る」という印象を生む一方、実際の発端は21世紀のネットオークションでした。怪談の年齢と、怪談の対象になった物の年齢は別なのです。
