6人目は「ランプリーを食べすぎた」とされる国王
1135年、イングランド王ヘンリー1世がノルマンディーで亡くなりました。狩猟を楽しんだあとに食事をし、その夜から急に体調を崩したと伝えられています。後世によく知られているのが、医師から止められていたにもかかわらず、好物のランプリーを食べ、食べ過ぎが死につながったという話です。
ランプリーは日本ではあまりなじみのない食べ物ですが、中世ヨーロッパでは高級な珍味として扱われていました。ヘンリー1世がこれを好んでいたという話も古くから伝わっています。そのため、「王が好物を食べ過ぎて死んだ」という、とても分かりやすい逸話になりました。ただし、ここでも死因を魚だけに決めつけることはできません。
ヘンリー1世は狩猟好きとして知られ、1135年の最期の日も狩りから戻ったあとでした。元気だった人物が、食事を境に急に病気になったため、周囲には食べ物との因果関係が分かりやすく見えたのでしょう。とくに「医師に止められていたのに食べた」という筋書きは、教訓としても非常に語りやすい形です。
本当にランプリーが死因だったのか
ヘンリー1世の死については、12世紀の年代記にランプリーを食べた後に病気になったという記述があります。しかし、別の記録では同じ食事が強調されていないものもあります。2023年に公表された医学史の研究でも、ランプリーそのものが毒になって死んだという説明には無理があると論じられています。
その研究では、急な発熱やけいれんなどの症状から、細菌による感染症など複数の可能性が検討されています。もちろん400年以上も前の死なので、現代の医学で正確な病名を確定することはできません。確かなのは、狩猟から戻って食事をしたあと急速に悪化し、1135年12月1日に亡くなったことです。ランプリーの逸話は「死の直前にあった出来事」としては重要ですが、「死因そのもの」とは分けて考える必要があります。
医学史の研究では、ランプリー中毒そのものを裏づける証拠は乏しいとされています。さらに、同時代に近い複数の記録を比べると、食事をどの程度重視しているかにも違いがあります。つまり、ランプリーの話は完全に作られたと断定する必要もありませんが、少なくとも「魚を食べたことが直接の死因だった」と決めつけるのは避けたほうがよいのです。
