54マイルの加速器を造る計画でした
最初に紹介するのは、米国テキサス州で進められた「スーパーコンダクティング・スーパー・コライダー(SSC)」です。これは、陽子をほぼ光の速さまで加速して衝突させ、物質の基本的な仕組みを調べる巨大な粒子加速器でした。計画された地下トンネルは、全長54マイル、約87キロメートルに達します。自動車で走る距離を思い浮かべると、その規模が分かります。
1983年には米国の高エネルギー物理学の優先計画として支持され、1989年には運営主体も決まりました。完成すれば世界最大級の研究施設になる予定で、建設のピーク時には約4500人が現地で働き、運用段階では2500人ほどの科学者、技術者らを抱える構想でした。科学のために、街ひとつ分ともいえる規模の施設を地下に造ろうとしていたのです。
地下に長いトンネルを掘るだけでも大工事ですが、SSCではそこへ多数の磁石や検出器を設置する必要がありました。高速で飛ぶ粒子の進路を正確に制御するため、設備全体の精度も非常に重要でした。
計画額は59億ドルから110億ドル超へ膨らみました
SSCの問題を象徴するのが、費用の変化です。米エネルギー省の監査資料によると、1989年の完成見積もりは59億ドルでした。その後、1991年に議会へ示された正式な基準では、1999年完成で約82億ドルとされました。ところが1993年になると、完成費用は110億〜130億ドル規模になるとの見方が出るまでに上昇していました。
しかも、1993年10月28日に議会が計画を打ち切った時点で、実際に使われていたのは約15.7億ドルでした。つまり「130億ドル使って中止」という意味ではありません。すでに約15.7億ドルを投じたところで、残りの負担があまりにも大きくなったことが、計画を続けるうえで大きな問題になったのです。
この差は、完成までに必要な追加費用への不安を大きくしました。研究施設は道路や住宅のように途中で少しずつ売上を生む設備ではないため、完成前の支出を社会が受け入れ続けられるかも大きな問題になります。
