英国の医療記録を全国で一気に電子化する構想でした
英国の国民保健サービス、NHSで2002年に始まった「National Programme for IT in the NHS」は、イングランドの医療情報を大規模に電子化する計画でした。英国の会計検査機関は、当時、この事業が世界の医療IT計画のなかでも非常に大きく、英国政府にとって最大の単独IT投資だったと説明しています。
中心となったのが患者の診療情報を電子化する仕組みです。当初は、イングランドの患者が電子的な診療記録を持つことを大きな目標としていました。病院や地域の医療機関が情報を共有できれば、治療の安全性や効率が高まるという期待がありました。紙の記録をデジタルに変えるだけでなく、医療現場の仕事そのものを変えようとした計画だったのです。
医療記録は個人情報を多く含むため、使いやすさだけでなく安全な管理も必要です。病院、診療所、薬局などで情報の扱い方が異なるため、全国を一つにつなぐ計画には技術以外の調整も必要でした。
費用は約127億ポンドと見積もられていました
英国の会計検査院は、計画の見積もり費用を127億ポンドとしていました。しかも、2008年3月末までにすでに36億ポンドが支出されていました。最初の予定どおり進めば全国で大規模にシステムが展開されるはずでしたが、電子的な診療記録の導入が遅れ、予定された時期に多くの医療機関へ行き渡らないことが明らかになりました。
2011年の会計検査院報告では、患者全員に電子記録を持たせるという本来の目標は達成されない見込みとなり、計画で整備するシステム数も大幅に減っていました。それでも、費用が同じ割合で減ったわけではありません。巨大な契約を結んだあとに内容を変える難しさが、数字にも表れています。
2008年3月末までの36億ポンドという支出は、計画全体の見積もりから見るとまだ途中でした。それでも導入の遅れが続けば、契約期間や人員配置の見直しが必要になり、先の費用を読みづらくなります。
見積もりの127億ポンドには、長い期間にわたるシステム整備の費用が含まれていました。そのため、一年や二年の予算だけを見ても計画全体の負担は分かりません。大型IT計画では、将来の保守や更新費用まで考える必要があります。
