全国一斉の電子化は当初の形では実現しませんでした
2011年の英国会計検査院の報告は、NHSの全国IT計画について、当初の構想が実現しないと明確に示しました。患者全員がこの計画によって電子的な診療記録を持つという中心目標は達成されず、導入の遅れも大きな問題になりました。その後、計画は早期に閉じられ、各地のシステムや後続事業へと整理されていきます。
ただし、「10年間で何もできなかった」と理解するのも正確ではありません。複数のシステムは導入され、予約や処方など、個別の仕組みには成果が残りました。最も大きな問題は、全国を一つの大規模計画として同時に変えるという当初の目標と、実際の医療現場との間に大きな差があったことです。
その後の英国では、医療機関が独自にデジタル化を進める流れも強まりました。全国共通の目標を残しつつ、現場の選択肢を広げる考え方へ移っていったことが、その後のデジタル政策にも影響しています。
英国の会計検査院は、計画終了後も関連するシステムの価値を評価し続けました。最終的な費用と将来の便益を分けて見ることで、計画が残したものと、達成できなかったものを区別できます。
大きな計画ほど途中で小さく分ける発想が重要です
NHSの事例から見える教訓の一つは、最初に大きな完成図を描くだけでは不十分だということです。病院ごとに使い方が違い、現場の負担も大きい場合は、小さな範囲で試して問題を修正し、それから広げる方法のほうが適している場合があります。
これは医療ITだけに限りません。大型計画では、最初の設計が正しいかを早めに確かめるほど、後からの変更費用を減らしやすくなります。米会計検査院がFCSやNASAの開発計画でも指摘しているのは、技術や費用を十分に確かめる前に大きく進めることの危険性でした。次の宇宙開発でも、まさにその問題が登場します。
最初から全国規模で導入するより、限られた地域や施設で試し、問題点を見つけてから広げる方法には利点があります。失敗の影響を狭い範囲に抑えられるため、修正もしやすくなります。
小さく始める方法には、導入に時間がかかるという面もあります。それでも、全国一斉に問題が広がる前に不具合を見つけられるため、医療や金融のように失敗の影響が大きい分野では特に意味があります。
