出力が下がったあと、現場で何が起きた?
試験の途中では、原子炉の出力が大きく低下しました。IAEAの後年の分析では、いったん30MW熱出力程度まで落ち、その後、試験開始前の状態として約200MWまで戻した経過が示されています。低出力状態では、原子炉内の状態を把握しにくく、運転員が扱う難しさも増していました。通常なら経験しないほど不安定な条件で、試験を成立させようとしていたのです。
さらに、原子炉の反応を抑える働きをするキセノンが増えた状態で出力を調整する必要があり、運転員は制御棒を動かして条件を整えました。後の調査では、必要な安全上の余裕が不足した状態で運転されていたことも確認されています。危険は爆発の直前に突然生まれたのではなく、少しずつ逃げ場を失うように積み重なっていました。
事故後に記録を詳しく調べることで、当時の操作がどの順番で行われたかが分かりました。現場の人たちは、目の前の数値を見ながら何とか条件を戻そうとしていました。危険を意図して大きくしたわけではない点も重要です。
「安全装置を切ったから事故になった」は正しい?
チェルノブイリ事故では、「非常用炉心冷却系を切ったことが直接の原因だった」という説明を見かけます。しかし、IAEAのINSAG-7は、試験中に非常用炉心冷却系が切られていたことを認めつつ、それが事故の発生や規模に影響したとは考えていません。これは重要な点です。目立つ操作があったからといって、それだけを事故の決定打にしてはいけません。
一方で、同じ報告は、運転員が規定から外れた条件で運転していたことも詳しく記録しています。つまり、「誰かの操作が悪かった」という話と、「設計そのものに弱点があった」という話は両立します。ひとつの判断に注目する記事でも、周囲にあった条件を切り離さないことが大切です。この考え方は、次のチャレンジャー号でもそのまま登場します。
事故の説明は、分かりやすいほど広まりやすいものです。しかし、分かりやすさと正確さは別です。チェルノブイリを学ぶときは、目立つ操作一つだけで全体を説明しないことが大切になります。
