安全設備が同時に弱っていた
ボパール事故で怖いのは、一つの装置が故障したことではありません。インド医学研究評議会の報告では、ガスを洗浄する設備で薬液が循環していなかったことや、放出されたガスを十分な高さまで処理するための仕組みが機能しなかったことなどが記録されています。結果として、本来なら一段ずつ危険を弱めるはずの複数の防護策が同時に力を発揮できない状態になりました。
事故直後には現場で放水も行われましたが、報告ではガスが出ていた場所まで十分に届かなかったとされています。こうした事実を並べると、事故の核心は「一回の操作ミス」だけでなく、危険を抑える仕組みを何重にも備えるという考え方が十分に機能していなかった点にあります。小さな異常を大事故へ育てないには、途中で止まる壁が必要です。
一つの設備が使えなくても別の設備が働くなら、被害を止められる場合があります。逆に複数の設備が同時に使えない状態だと、最初の小さな異常が一気に大きくなります。多重化の意味はここにあります。
「水が入ったこと」だけで説明できる?
水の侵入は、ボパール事故を説明する重要な要素です。しかし、当時の資料を読むと、水が入ったことだけで数万人規模の被害を説明することはできません。水による反応で圧力が上昇したあと、危険なガスを処理する設備が十分に機能しなければ、反応のエネルギーが外へそのまま伝わります。事故は、最初の出来事と、それを止められなかった環境の両方で考える必要があります。
この点は、事故調査でよく出てくる「最後の一押し」と「そこまでに積み上がった条件」を分けて考える方法にもつながります。水がきっかけだったとしても、安全設備が十分に働けば被害の大きさは変わった可能性があります。だから再発防止では、最初の異常を完全にゼロにするだけでなく、異常が起きた後にも被害を止められるようにします。
事故調査では、最初の化学反応と、被害を食い止める機能が働かなかったことを分けて考える必要があります。引き金と拡大要因を一緒にしないことが、再発防止策を考えるうえで重要です。
